現役&元行政書士のGenomosメンバー3人が座談会形式で語るGenomos座談会の第6回は、先日開催された『行政書士フォーラム2021』を受けて、行政書士にまつわるテーマについて3回に分けて語ってみようと思います。
座談回第6回の前編はこちら→『行政書士事務所の法人化:Genomos座談会#6-1』
座談回第6回の後編はこちら→『行政書士の集客(Youtube,SNS):Genomos座談会#6-3』
Genomos代表、士業向けウェブ制作会社風デザイン株式会社代表。元行政書士。
Genomos経営コンサルティング担当。行政書士法人シグマ代表社員。
Genomos所属。行政書士法人シグマ代表社員。
次に行政書士の専門特化について話してみたいと思いますが、Genomosの過去のコラムでも一般的なことは『行政書士の「専門特化」について考えてみる』にまとめていますので、ここではもう少し個人的な話を中心に聞いてみたいと思います。
ということで、専門分野を選んだ理由を聞いてみたいと思いますが、行政書士時代の岩本さんが主に取り扱っていた業務とその業務を選んだ理由って何だったんですか?
私は主に、建設業、宅建業、古物商の3つの許認可を取り扱うことが多かったです。産廃収集運搬とか建築士事務所登録などもそこそこ申請してましたが、それらはどちらかというと、前者3つの業務から派生するといった感じでした。
これらを選んだ理由は、というかそもそも行政書士として開業した当初は許認可というもののイメージが全く湧かなくて、その辺の業務はかなり敬遠してました。
そこから相続や遺言、小さなところではパスポート申請の代行などを業務としていたのですが、初めて建設業許可の申請業務を依頼されたときに「きょ、許認可って、もしかしてかなり面白い?」と食わず嫌いだったことに気がついて。
あとはもう、逆に許認可しか取り扱わない行政書士に180度方向転換したという経緯があります。
行政書士をはじめる前の経歴や趣味から専門を選んだというよりは、行政書士をはじめてから徐々に取り扱う業務が決まっていったという感じですね。私も同じパターンです。
阪本さんはむしろ逆のパターンですよね?
私の場合は、確かに独立時に専門分野が決まっていましたね。運輸と旅行の許認可を専門だと標榜していました。
とはいえ、私が専門分野を決められたのは、行政書士法人の補助者・使用人行政書士時代に、様々な行政書士業務を経験したからです。勤務時代は、運輸業や旅行業以外にも、建設業・宅建業・産廃収集運搬業の王道許認可業務から、経審、入札参加資格申請、風営、医療法人、NPO法人、契約書など、様々な行政書士業務を経験し、自分に合わない業務は引いていったら、運輸と旅行の許認可が残りました。
最近の行政書士界隈は起業時に専門分野を決めることが当たり前のようになっている印象を受けますが、深堀したい業界が明確になっている行政書士さんはそこまで多くはないでしょう。
「えいや!」で専門分野を決めてもいいのですが、まずは、様々な行政書士業務を経験してから、やらない分野を決めていくのも良いのではないでしょうか。
私も開業した当初は建設業、宅建、融資、車庫証明、契約書、内容証明という感じで、いただいた話は基本的にチャレンジするというスタンスで色々とチャレンジしていました。
2年目か3年目くらいで良いウェブ制作者の方と出会って、その人に作ってもらった飲食店営業許可のサイトでけっこう集客が出来て、段々と飲食店営業許可、深夜酒類がメインになっていきました。
最終的には風俗営業許可の入り口あたりで現場を離れたという感じなので、「専門特化」というにはおこがましいのですが。
阪本さんから話のあった、最近の行政書士は起業時に専門分野を決めるという話ですが、行政書士業務に馴染む経歴も趣味も無いような人も多いと思うんですよ。
そういう人からすると、というか自分がそうだったんですが、「そんなこと言っても決められないよ」というのはあるんじゃないかと。
かと言ってなんとかひねり出していざ営業活動をはじめると「経験も無いくせに”得意”とか”専門”とか名乗るな」って怒られるわけですよね。
これってどうしたらいいんでしょうかね?(笑)
うわー!答えにくい質問をぶち込んできましたね(笑)
例えば、許認可の分野なら「〇〇業に興味があって勉強しています!」という回答はどうでしょうか。
営業先が、事業者さんなのか他士業さんなのか同業者さんなのかわかりませんが、業歴が浅いことは無理に隠さないで元気に営業活動していると、「そういえば、この手続きできる?」という相談に繋がることもありますよね。
ポイントは「勉強しています!」の最後のビックリマークだと思います。元気よくこのように言われたら、私なら「頑張ってください!」と答えざるえないです。
相談者さんにその行政書士さんのキャラクターを気に入って頂くことができたら、「試しにやってみな」という流れになることがありますよね。
ある程度の分野を絞れるなら、たとえば私は先ほど触れたように途中から許認可のみに絞ったわけですが、そんなときは「許認可に特化した」といった言い方はできるのかなと思います。
「よろずご相談承ります」では専門性を打ち出しにくいですが、行政書士の中でもある程度の方向性って早い段階で出てくることが多いですよね。「相続・遺言など身近なお困りごとの解決に特化した事務所です」とか「外国人に関連する手続きに特化しています」とか。
それくらいで絞っておいて、より深く進んで行きたい業務が定まったら「専門」として事務所の柱を作っていくとか。
お2人の話を聞くと、ここが行政書士事務所経営序盤の試練なのかもしれないという気がしますね。
「完璧にできるようになってから開業する」というのは不可能なわけで、ある意味でのハッタリを効かせて、お客様には落ち着いた専門家の顔を見せつつ、裏では冷や汗ダラダラ流しながらなんとか迷惑かけずにやり切るというのは、特に即独の場合だと、事務所経営序盤の必須スキルじゃないかという気もします。
必須スキルかもしれません。直接の相談にしろ、電話の相談にしろ、背中を汗がツーッと流れていったことが何回あったか。
そういえば、開業からしばらくの間は「根拠の無い自信でも無いよりは有ったほうがいい」と常々思ってました。案外、自信のなさが現れさえしなければ、なんとかなる場面も多いですし。
あとは「開業からしばらくは来た依頼を断るな」的な話もよく出ますが、私は逆に、即独の事務所運営になりやすい行政書士だからこそ「開業からしばらくは「これだ」と思える依頼まで受任を避けろ!」と思わなくもないです。開業資金残高との相談にもなりますが、何事も経験だからと身の丈に合わない依頼まで闇雲に受任していると、専門特化する以前にクリティカルなミスを犯して廃業せざるをえない怖さもありますよね。
事務所経営をするためには、集客して売上を積み上げていくスキルと、受任した業務を進行するスキルの2つが大切です。営業スキルは前職が営業職だった方は全く問題ないと思いますが、実務のスキルは、泉谷さんが仰る通りで、冷や汗流しながら経験値を積み上げていくしかないでしょうね。
経験値を積み上げていくときに、その分野に精通している先輩行政書士さんに相談しながら実務を進められるのが理想かと。
相談しやすい先輩の行政書士さんが居ると心強いですよね。そういえば私も、最初の建設業許可の申請が入ったときにはいろいろアドバイスをもらいました。アドバイスされた内容よりも、どちらかというと「まあ大丈夫でしょ」的に言ってもらえたことが安心につながりましたね。
とはいえ、この辺の先輩行政書士との距離感というのも、これはこれでなかなかに難しい問題もありますよね。相談する以前に関係性をちゃんと構築しておくことが大事というか、相手の時間もノウハウも奪う行為ですし、なんでもかんでも聞くのではなく自分で調べた上で「ここぞ!」という箇所だけピンポイントで聞けるように準備するのが大事というか。
これ、専門特化の話題から逸れてしまってますかね。この辺で切り上げます。
先輩というか同業者との話は、阪本さんも色々と思うところがあると思うのでまた別の機会にしましょうか(笑)
話が専門分野を定めるところから、専門特化していく過程に変わってきたようなので、ここを少し深堀りしたいと思いますが、「これならこの分野の専門家と名乗ってもいいかも」と感じた瞬間はありますか?
私は開業から10年経過しても、「これなら専門家と言える」と思えたことはありませんでした。
ただ、古物商許可は月に十数件程度依頼を受けていた時期もありますし、宅建業免許も業界団体から表彰される程度には申請件数があったので、この2つについては個人事務所としては「平均的な事務所より取り扱っている件数多めかな」「かなりレアなケースの申請も取り扱ったかな」という感覚はありました。
でも、まあ、この2つは比較的申請内容が定型的なので、行政書士として専門特化して突き詰めるような種類の許認可業務ではないですよね。結局、私の場合は古物商許可にしろ宅建業免許にしろ、あるいは建設業許可にしろ、「どうやってウェブから受任するか」「ホームページ経由で受任件数を増やすにはどうしたらよいか」のほうに興味が向いてしまって、そこから行政書士ではなくウェブ方面に特化してしまったわけですが。
また話題を逸らしてしまった気もしますが、阪本さんはどうでしょう?
正直なところ、私もまだまだ知らないことがあるのですが、自身の専門分野を極めつつあるなと感じる瞬間は2つありますね。
1つ目はお客様と面談してお客様から「相談して悩みが解決できてスッキリした」と仰って頂く時です。もう1つは、申請先の行政機関から「阪本さんの申請なら大丈夫でしょう」と仰って頂けるときでしょうか。
阪本さんのはさすが王道という感じがします。一方で岩本さんのように結果として行政書士業務以外に特化していくというのも全然アリですよね。
ちなみに私は専門特化したというレベルには至りませんでしたけど、現場に時々現れる、「お客様の横にいる謎の事情通的な少し許認可に詳しい人」の間違った見解を、その人のメンツを潰さずに正しい結論に持っていけた経験は自信になりましたね。
先程の阪本さんの話に「行政機関」が出てきましたが、対行政機関だと、阪本さんの中で「ここまでやれれば専門家と名乗っていいだろう」「専門家としてはこのくらいのレベルでありたい」というようなイメージはありますか?
そうですね。行政の担当官から「先生」と呼ばれるのではなくて、「○○さん」と呼ばれるようになったら専門家として名乗っていいのではないでしょうか。あと、行政機関と見解が対立したときに、法令・通達・判例などで、淡々と論理的に交渉できるレベルでありたいですね。
申請窓口で担当官に対して吠えている同業者さんを見かけることがありますが、こういうのは、うちの事務所の色に合わないです。
行政機関の担当者に認知されて、かつ担当者以上に関連法規や通達に詳しいというのは「専門家」の基準としてイメージしやすいですね。
専門特化に関してはもう少し深堀りできることはありそうですが、だいぶ長くなったので、そろそろ3つ目の「集客」にうつりましょうか。
(座談会第6-3回に続く)