行政書士事務所を開業し、行政書士としての仕事をするにあたっては、各種の業法や業界知識、マーケティングなど、多くの知識が必要なのは当然なのですが、その中でも開業前から勉強がしやすく、ほとんどの方に有用な知識を紹介していきたいと思います。
① 民法・会社法:業務の“基本言語”
近年の行政書士試験に合格された方は一通り勉強しているとは思いますが、民法や会社法の知識は開業後にも役立ちます。
契約書の作成、相続・遺言、成年後見など、あらゆる場面で登場するのが民法です。
とくに個人案件を多く扱う場合、条文の趣旨や構成をしっかり理解しておくことで、トラブルを未然に防ぎ、依頼者に安心感を与えることができます。
そして会社法については、行政書士試験ではあまり重点的に勉強しない方も多いのですが、許認可業務を中心にした場合など、法人顧客が多いケースだと民法と同等かそれ以上に使用頻度が高いです。
例えば許認可業務では、組織再編が絡む相談が増えてきています。合併や会社分割、株式交換、株式移転といった会社法における組織再編行為に伴って、取得している許認可を維持するためにどのようにすればよいのかという相談です。
このような相談は、直接の顧客だけでなく税理士や司法書士から受けることが多いので、他士業からの信頼を得るためにも、会社法の知識は必要になってきます。
② 商業登記法・不動産登記法:自分のため、他士業連携のため
次に、商業登記法と不動産登記法です。
もちろん登記手続きは行政書士業務ではなく司法書士業務なので、直接の業務知識として登記法の知識を使う機会は少ないです。
しかし、それゆえに業務上で司法書士とやり取りをすることは少なくありませんし、日常的に登記簿謄本を読む機会がありますので、最低限の登記法の知識があると非常に役に立ちます。
登記手続きの段取りがわかるだけでも、顧客や司法書士とのコミュニケーションの質が上がりますし、スケジュール管理の精度が上がりますので、顧客の不安感を最小限にして行政書士業務を進行することができます。
また、行政書士として許認可業務を受任する前提として、会社の代表者と話をする機会が多いですが、会話の内容を理解するためにも、商業登記法の知識が必要になることがあります。
つまり、ここでも商業登記法がコミュニケーションツールとして役立ちます。商業登記法を理解しているかいないかによって、許認可業務の依頼を引き出せるか否かが左右されるケースも多々あります。
③ 会計・簿記:決算書が読めないと業務が止まる
行政書士が許認可業務を扱うときには、決算書を読み解かなければいけないことが頻繁にあります。
例えば建設業許可の経営事項審査では、決算書の数字を適切に読み解くことによって点数を上げる必要があったりしますし、その過程で顧問税理士と意見交換をすることもあります。
また、許認可によっては、「純資産額が〇〇〇万円以上」という条件が定められているものがあります。決算書のどこにその数値が記載されているのかわからなければ、許認可を取得できるのか、できないのかの判断はできません。
したがって、決算書を読んでも言葉の意味すらまったくわからない、というのでは業務に大きな支障が出ますので、最低限の会計の知識は必要になってきます。
特に、クライアントとなる会社の代表者や許認可の担当者よりも、行政書士のほうが決算書を読めない状態だと、仕事を依頼してもらう前提の信頼関係が築けません。
そこでオススメしたいのが簿記です。
簿記はあくまでも帳簿作成、財務諸表作成のルールですので、簿記の勉強をしたからといって、イコール会計の勉強というわけではありません。しかし、日商簿記3級相当の知識があれば会計の勉強にもスムーズに入っていけますし、行政書士業務を行ううえで最低限のレベルをクリアできます。
まとめ
行政書士として開業すれば、毎日が実務と信用の積み重ねになります。
その中で、「あ、この人はわかっているな」と思われる瞬間が、依頼につながることも少なくありません。
今回ご紹介した民法・会社法・登記法・会計(簿記)は、いずれも「すぐには報酬につながらないかもしれないけれど、やっておけば必ず自分を助けてくれる知識」です。
開業前や開業初期で少しでも時間があるうちに、こうした分野に触れておくことで
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業務遂行のスピード
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他士業との連携力
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顧客との信頼構築
など、実務力全般の底上げが可能です。
「将来の自分を助ける知識」として、早めに一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。