『売上最小化、利益最大化の法則』
出版社:ダイヤモンド社
著者:木下勝寿
カネなし、コネなし、実績なしから東証一部上場した「北の達人」社長の処女作。利益率29%の秘訣は、会社の弱点が一発でわかる「5段階利益管理」と一度つかんだ顧客を絶対に離さない商品・人材・マーケティング戦略。史上初の4年連続上場&株価上昇率日本一超効率経営の秘密を創業社長がこれでもかとすべて語る!
https://www.diamond.co.jp/book/9784478113127.html
阪本コメント
行政書士事務所の規模を比較する指標として「売上高」と「従業員数」の2つがよく使われています。行政書士業務は労働集約型ビジネスであり、事業活動の大部分を人間の労働力に頼らざるをえません。先に進んでいる行政書士事務所さんでは、RPAを導入し書類作成業務の自動化を進められています。
一方、本書では、売上が上がれば単純に利益も上がるわけではないため、売上と利益をセットで管理する思考の大切さについてわかりやすく解説されています。さらに、利益体質の会社をつくるための利益管理の方法についても解説されています。
本書で紹介されている『5段階利益管理』は利益を商品・サービスごとに5つの段階で見える化する方法であり、行政書士事務所でも活用できる管理手法だと思います。
この5つの段階の中では、行政書士事務所は『ABC利益』の管理が肝であると思います。
行政書士事務所がABC利益を管理することで、どの案件にどれだけの手間ががかかっているかを見える化を行うことができます。
ABC利益の管理方法は、一個一個の案件ごとが基本になりますが、案件ごとのABC利益を把握することができれば、取扱分野ごとのABC利益や、関与先別のABC利益を把握することができ、提供価格の見直しや所内の業務改善に活かすことができるでしょう。
売上と利益は対比するものではない。利益が絶対の目的であり、売上はそのプロセスだ。
P73 第2章 売上OSが利益OSに変わる!売上最小化、利益最大化の法則
また、本書後半のLTVの向上につながる『目立たないプロモーション』『演歌の戦略』は、マーケティングをWEB上で行いながら業務品質にこだわる経営方針で行政書士法人を経営している私には、刺さりまくった内容でした。
お客様は「本物」を見抜く目を持っている。「知名度がないのに売れている」が本物の証拠であり、誇るべき事象だ(「知名度は必要ない」というわけではなく、「知名度は必須条件ではない」という意味だ)。
P222 第6章 ファンの心をつかんで離さない「演歌の戦略」
泉谷コメント
本書では、売上よりも利益に着目した経営手法が紹介されていて、この発想は行政書士事務所の経営に非常に馴染みやすいのではないかと感じました。
第1章で紹介されている「無収入寿命」という考え方は、安定した事務所経営のためにも意識しておきたいポイントだと思いますし、商品戦略についてもそのまま行政書士業務にあてはめることは難しいかもしれませんが、行政書士がサービスを考えるのに応用できる様々な気付きがあります。
また、雇用をしている事務所にとっては、第7章の人材戦略も非常に役立つ内容だと思います。
個人的にはあとがきでさらっと触れられている「ピッパの法則」には大きく頷きました。
たしかにこれまで出会った行政書士の中でも成功している人は、「ピッと思ったらパッとやる」タイプの人が多いように思います。
行政書士事務所の経営に参考になる部分、そのままでは参考にしにくい部分が比較的はっきり分かれている本書ですが、新たな気づきを得られる人も多いと思いますので、ぜひ一度読んでみてはいかがでしょうか。
岩本コメント
「自ら起業して事業を軌道に乗せるためには、まず投資して事業規模を拡大させる意識が大事」
これはよく耳にするフレーズですが、本書は一度ひっくり返します。
売上が全く発生しなくても、一定期間を乗り切れるだけの手元資金を「無収入寿命」として確保しておくためには、それを達成するまで大きな投資は控えてコツコツと貯める。そして、ある程度の手元資金が貯まった段階で、それを維持したまま、規模の大きな投資などにも取り組んでいく。
実際、行政書士事務所を開業して、ある程度継続的に依頼が入るようになるまでには一定の期間を要しますから、その間に大きな投資を行ってそれが上手くいけばよいですが、裏目に出たときには廃業を余儀なくされてしまいます。
家計ではある程度の生活費を確保して、それ以外の様々な出費を検討していくことになります。これは事業よりも家計の思考に近く、給与所得者から行政書士として事務所を開業する人にとっては、イメージしやすいのではないでしょうか。(もちろん、事務所を運営する限り「倹約こそ最大の美徳」というわけにはいきませんので、要所での投資は検討していくことになりますが)
本書後半で触れられている「目立つプロモーション」については、自社が行うか否かの問題とは別に、行政書士の場合は競合事務所の「目立つプロモーション」にばかり目が行ってしまい、それを模倣すれば事務所の売上が上がるのではないかと錯覚してしまいやすいことは、プロモーションの戦略を練る上で注意を要する点かと思います。