行政書士事務所の売上がある程度伸びてきて、集客よりも業務をどう捌いていくかに悩みはじめる頃になると、人を雇ったり、共同経営者を見つけたりして事務所を組織化をしようか検討する人が増えてきます。
個別の事情も多く、なかなか扱いにくいテーマではありますが、今回は行政書士事務所の組織化に関して書いてみたいと思います。
行政書士事務所を組織化するか否か
まず最初にして最大の分岐点は、引き続き行政書士1人でやっていくのか、2人以上の体制にして事務所を組織化していくのかということでしょう。
当たり前の話ですが、1人事務所も複数人事務所も、どちらが正解であるとか、優れているということはありません。それぞれの経営判断によって、どちらの道を選ぶかは変わってきます。
しかし、もし組織化することを選択するのであれば、一度組織化してしまうと後戻りが難しくなってしまう面も強いため、その点は覚悟をして組織化に望んだ方がいいのかもしれません。
なお、本筋から外れますが、「組織化」というと、行政書士事務所が数人を雇うとか、共同経営で2~3人の事務所にするとかいうことを指すには少し大げさに感じる方もいるかもしれませんが、他に適当な言葉も見つからなかったので、本稿では行政書士事務所のメンバーが2人以上になることを便宜上「組織化」と呼んでいます。
個人事務所か法人か
行政書士事務所として組織化の道を選んだときには、大きく分けて個人事務所としてやっていくのか、行政書士法人を設立するのかという選択肢があります。
内情は変わらなかったとしても、どちらを選ぶかによっていくつか異なる点が出てきます。
ちなみに、これまで行政書士法人は、必ず2人の行政書士が社員になる必要があったので、かならず組織化することになっていたのですが、2021年6月からは1人でも行政書士法人を設立できるようになります。
対外的な違い
対外的には、行政書士法人の方が一般的に信用面で有利と言われています。
例えば大手企業の中には、内情にかかわらず法人としか取引をしないという社内規定を持つ企業も存在しています。
また、人材の採用にあたっては、社会保険加入義務があるという点や、「法人」ということで家族の理解が得られやすいなど、有利になると感じる人が多いようです。
人によっては融資の際にも有利に働くと言いますが、関係ないという人もいて、この点については実際のところはよくわかりません。
最後に細かいところですが、行政書士法人は、ホームページを作る際に”.co.jp”を使えるという点も、対外的な違いと言えるかもしれません。
内部的な違い
一般的には行政書士法人の方が、内部の手続きは煩雑です。
その最たるものが、登記、法人税の申告、社会保険に関する手続きです。行政書士会に対する手続きも少し面倒になります。
仕事で顧客の書類を作り慣れている行政書士ですが、自分の事務所に関する書類作成は面倒だという人も多いので、意外と馬鹿にならない違いではないでしょうか。
また、行政書士法人化した行政書士から評判が悪いのが、個人の行政書士会費と別に法人の分まで会費を徴収されるという点です。
このように、行政書士法人の方が、コストや手続きの面では負担が大きいと言えそうです。
組織化した行政書士の悩み
組織化した際の悩みというのは、行政書士事務所に特有というわけではなく一般的な話ばかりではありますが、ここからは組織化した行政書士からよく聞く悩みを紹介したいと思います。
人に関する悩み
最も耳にすることが多いのは人に関するもので、採用、教育、人事評価など、大きな事務所ほど悩んでいる印象です。採用して教育をして一人前になったかなという時期で独立されてしまうと、経営陣の落胆ははかりしれません。
また、たとえ行政書士に落ち度がなくとも、たまたまスタッフが諸事情が重なって同時期に辞めてしまう事態に陥ると、事務所運営が一気に暗礁に乗り上げてしまう危険もあります。
業務処理体制に関する悩み
人が増えると、業務に関する情報の保存・共有、業務手順の共通化、業務品質の維持、業務の効率化など、1人のときには生じなかった課題がいくつも出てきます。
一人、一人、スタッフを育てていくことにも難しい面がありますが、それを効率化するためにマニュアルを用意しようにも、それはそれで不慣れなうちはなかなかに難しかったりします。
1人事務所という選択肢
組織化をすると1人ではできなかったことができるようになるという大きな利点がある一方で、これまでも紹介してきたように多くの手間や課題が生じます。
そのため、売上が増えてきても、あえて組織化の道を取らず、1人事務所を選択する行政書士も多いです。
1人事務所を維持する理由は、
- 1人事務所のフットワークの軽さを活かしたい
- 組織の運営コストというリスクを取りたくない
- 自身の収入を売上にあわせてコントロールしやすい
- 共同経営者が見つからない
- 組織に疲れて行政書士になった
- すべての実務に直接関わりたい
など様々ですが、ある程度の売上を維持しながら組織化しない人には、明確な理由がある人が多いという印象があります。
まとめ
1人行政書士事務所でいくべきか、組織化した行政書士事務所にするべきかは、行政書士自身の事業計画、人生設計、性格などによって変わってきます。
組織化しようか迷っているという方は、上記のメリット・デメリットを参考にしていただくとともに、可能であれば既に組織化している行政書士に話を聞いてみるといいのではないでしょうか。