『勝ち残る税理士事務所をつくる所長の教科書』
出版社:日本実業出版社
著者:株式会社名南コンサルティング
2000超の税理士事務所を顧客にもつ著者が成功事務所の共通要素を整理。自所の強みを活用して差別化し成果を上げていく方法を解説します。クラウドやAI、コロナ禍への対応まで、厳しい経営環境下で勝ち残る術を網羅した、所長さん必読の“使える”教科書。
https://www.njg.co.jp/book/9784534058188/
阪本コメント
本書がジェノモスの読書感想文の課題図書になったとき、
「おいおい、税理士事務所向けの本を読んでも気づきあるの?」
と疑問を感じながら読み始めた本書ですが、第1章で良い意味で裏切られました。
行政書士業界でよく議論される専門特化の必要性、専門特化する時はどの分野を選べばいいのか、という疑問の解決のヒントが本書に書いてあり、腹落ちしました。ぜひ、専門特化について悩まれている方は本書を読んで頂きたいです。
また、2021年6月4日より改正行政書士法が施行され、行政書士法人が爆発的に増えることが予想されます。法人が増えることによって組織的に行政書士業務を行われる事務所も増えると思いますので、行政書士業務を組織的に行うためには、業務の標準化や職員の採用・教育についても考えなければなりません。
本書の後半では、標準化の進め方や留意点、職員の採用・教育についてもかなり具体的に言及されており、行政書士事務所であっても活用できるノウハウが盛りだくさんです。
法人化をすると多くの職員を雇用して支店展開しているイメージが先行しがちですが、規模を拡大すると、経営者が好きで、得意で、できる事業の領域に業務を絞ることができなくなります。
経営者が絞り込んだその領域内で生存していくことを宣言し、「この指止まれ」で人を募り、また動機付けをすることで、それが好きで得意でできる者たちが集まってくる、また育つようになる。
P32
私自身、法人化当初は、多店舗展開して多くの職員を雇用する行政書士事務所にすることを目標にしていましたが、「ターゲット」「サービス・業務内容」「提供方法」を絞り、規模を追求しない方が、お客様、職員、家族そして自分自身が幸せになれると今は考えております。
泉谷コメント
本書でまず驚いたのが、税理士業界で”開業したって飯は食えない”と言われているということです。そう言われていることは寡聞にして知りませんでした。
我々行政書士から見ると、人数が8万人近くいて競争が激しいものの、税務申告という強力な法定独占業務があり、顧問契約が基本で、経営者から広く認知されているという点では安定した経営が実現しやすいように見えるのですが、本書を読むと話はそう簡単ではないのかもしれません。
さて、本書の内容ですが、税理士事務所向けに書かれてはいますが、行政書士事務所にそのまま当てはまる話も多いと感じました。
特に第5章については、行政書士事務所の経営がある程度軌道に乗ってきたタイミングの方には非常に参考になるのではないでしょうか。
第5章で扱われている「標準化」については、個人事務所だと不要だと思う方もいるかもしれませんが、業務の量がそれなりになってくると、ある程度「標準化」を意識しないと、業務に忙殺されてしまい、マーケティングや営業に手が回らなくなりがちです。
第5章以外にも行政書士として参考になる部分は多いので、事務所経営のステージに応じて何年かに一度読み返してみるといいのではないでしょうか。
岩本コメント
本書のP163に、以下のような記載があります。
事務所紹介型のホームページは、問い合わせを増やすためのものではなく、ご紹介をいただいた際の“安心”と“期待”を担保するものとの認識が必要です。
P163
これは私もよく触れる話題なのですが、「事務所総合型(コーポレート型)」で作るのか、それとも「業務特化型(直接受任型)」で作るのか、これからホームページを制作する場合はしっかり用途を検討したほうがよいです。
引用文にもあるとおり、事務所総合型は、ホームページ以外の営業行為によって生じた紹介を依頼に繋げるためのツールです。ところが多くの行政書士さんは、前者の事務所総合型でホームページを作って(あるいは制作してもらって)から、そこに後者の直接受任という効果を持たせようと四苦八苦しています。
ハサミは切るための道具で釘を打つのには適さないように、本来の用途と違うことに道具を使うと余計な手間や時間が取られて逆に不便です。茨の道に猪突猛進です。
と、職業柄ホームページの話題のみ切り取ってしまいましたが、この本には士業が事務所を運営していくために必要な考え方や実践方法が、非常に厚く書かれています。そして「抽象的なことが具体的レベルにかみ砕かれて書かれている教科書」とも言えます。税理士事務所が本来のテーマですが、行政書士でも(何なら士業事務所でなくても)ほとんど違和感なく読み進められる内容ではないでしょうか。
他の本では抽象的に触れられている内容でも、この本では詳細まで具体的にイメージしやすいように説明されているので、自分の事務所に足りないと思える事項から(事務所の成長段階に応じて)実践で改善していくことができるはずです。