新人行政書士のための「選択と集中」ガイド

記事更新日:

Q. 開業したばかりで、どんな仕事でも引き受けるべきか迷っています。売上を考えると、依頼を断るのは不安で…。

A. そのお気持ち、よくわかります。しかし、すべての依頼を受ける「何でも屋」になってしまうと、結果的に一つひとつの業務が中途半端になり、専門性が薄れてしまいます。お客様からの信頼を得るためには、あなたが「何に特化しているか」を明確にすることが大切です。

行政書士として独立・開業したものの、「何から手をつけていいかわからない」「どんな依頼も受けた方がいいの?」と悩む新人行政書士の方は少なくありません。このコラムでは、新人行政書士が陥りやすい「何でも屋」のワナから抜け出し、「業務の選択と集中」によって事務所を成長させるための具体的なステップをご紹介します。すべてをやる必要はありません。むしろ、「やらないこと」を決める勇気が、あなたの事務所を大きく飛躍させるカギとなるでしょう。

なぜ「何でも屋」になってしまうのか?──新人行政書士が陥りやすいワナ

開業したばかりの行政書士が最初に直面する壁、それは「依頼を断れない」というプレッシャーです。売上を確保するためには、できるだけ多くの案件を受けたい、すべてに応えたいという気持ちが強くなるのは当然でしょう。しかし、この「何でも屋」精神が、実は後々の成長を妨げる原因になりがちです。そもそも、行政書士業務は非常に幅広く、一人でそのすべてを網羅するのは現実的に難しいのです。

例えば、ある行政書士のAさんは、開業初期に「会社設立支援」「相続手続き」「建設業許可申請」「外国人ビザ申請」など、さまざまな業務を手掛けていました。最初は依頼が来るたびに「ありがとう、これで事務所が軌道に乗る!」と喜んでいましたが、数ヶ月後、状況は一変します。全ての業務に時間が取られ、どれも中途半端になってしまいました。特に外国人ビザ申請の知識が不足していたため、依頼者からの質問にうまく答えられず、信頼感を失いかけてしまったのです。

Aさんが直面した問題は、「いろいろやり過ぎると、自分の専門性が薄れる」ということです。最初は広く業務を受けることに意味があると感じていたかもしれませんが、専門的な知識や経験が乏しいままだと、結局はどの業務にも深みが出ません。お客様にとって、どんな業務でも対応できる事務所よりも、「この分野なら任せておける」と思える専門性を持った事務所の方が信頼を寄せやすいのです。

このように「何でも屋」になってしまうと、自己の強みを発揮できず、業務の質が低下します。それが積み重なることで、顧客満足度の低下や、最終的には事務所の成長を妨げることになるのです。では、どのようにこの「ワナ」を避けるか?そのカギは、「どの業務を受けるか」を戦略的に決めることにあります。

「選択と集中」が必要な理由──経営資源の限界と差別化戦略

行政書士事務所が成功するためには、「選択と集中」が不可欠です。なぜなら、開業初期の事務所には、時間、人的リソース、専門知識といった経営資源に限りがあるからです。どんなに優れたスキルを持っていても、全ての業務を均等に扱おうとすることは、結局は全てが中途半端になってしまいます。特に、個人事務所や少人数の事務所では、この選択と集中が経営を左右するといっても過言ではありません。

行政書士のBさんは開業当初、一般的な行政書士業務に加え、相続・遺言書作成、法人設立、外国人ビザ申請、さらには補助金申請など、幅広い業務を受けていました。しかし、徐々に多くの案件を抱える中で、どれも深く掘り下げることができず、依頼者からの信頼も薄れていったのです。特に補助金申請に関しては、手続きが複雑であり、他の事務所と比較して深い知識を持っていなかったため、対応が後手に回りがちでした。その結果、Bさんの事務所は顧客を失い、何度も「専門性を欠いている」と指摘されることになりました。

一方、行政書士のCさんは、最初から「建設業許可申請」に特化することを決めました。この選択はリスクもありましたが、彼は建設業界に特有の知識を深めるために、セミナーや研修を積極的に受け、業界の動向に精通するよう努めます。その結果、Cさんの事務所は建設業許可申請の分野で高い評価を得るようになり、口コミや紹介で顧客が増加。事務所の売上も安定し、経営基盤が強固になったのです。

このように、どの業務を選択し、どの業務に集中するかは、事務所の競争力を決める要因になります。特化することで、差別化が進み、他の事務所と一線を画すことができるのです。お客様は特定の業務に精通している専門家を求めているため、専門性を持つことは、信頼を築き、事務所の安定的な成長に繋がります。

業務の棚卸しをしてみよう──情熱を注げる分野を見つける

業務を選択する際、効率化だけでなく、自分自身が興味を持ち、知的好奇心を満足できる分野に特化することが重要です。行政書士としての成長には、単に「儲かる」「効率的」という理由だけで業務を選ぶのではなく、自分が心から関心を持てる分野に時間とエネルギーを集中することが、最も効果的な戦略と言えるでしょう。

例えば、行政書士のDさんは開業当初、許認可申請業務、自動車登録、遺言相続、外国人ビザ申請など、さまざまな業務を手掛けていました。しかし、次第に自分が最も強い関心を持ち、知識を深める意欲が湧く分野があることに気づきます。それは、廃棄物処理に関する許認可申請業務でした。最初は、許認可申請の中でも複数の分野を手掛けていましたが、廃棄物関係の業務が特に自分の興味を引き、実務としても深い知識を活かせると感じたのです。

その結果、Dさんは他の分野、たとえば「自動車登録」や「遺言相続」といった業務を整理し、廃棄物処理業の許認可申請業務に特化することを決めました。これは単に効率化のためだけではなく、廃棄物処理業界に特有の法律や規制に深く関わることができるという点で、Dさん自身の知的好奇心を満たす分野であると考えたからです。

廃棄物処理業許可を取得するための手続きは複雑で、毎年の法改正や新たな規制に対応するためには、常に情報をアップデートし続ける必要があります。このような分野に特化することで、Dさんは廃棄物処理業界に精通し、法律や行政手続きに関する専門家としての地位を確立することができました。

「自分の興味を満たす」という観点で業務を選び、それを深く掘り下げることで、Dさんは他の事務所との差別化に成功します。結果として、廃棄物処理に関する許認可申請業務の需要が増え、クライアントからの信頼を得ることができました。

このように、業務の取捨選択は単なる効率化の問題ではありません。自分が本当に情熱を持てる分野に特化することが、事務所の成長にとって不可欠です。自分の強みや興味を反映した業務に集中することで、より専門的なサービスを提供し、長期的な成果を得られるでしょう。

思い切って断る勇気──「その案件は他の先生に」が信頼を生むことも

依頼を断ることは、開業初期の行政書士にとって大きな決断です。しかし、意外にも「断る勇気」を持つことが信頼を築く第一歩になることが多いのです。お客様は、専門家に頼むことで自分の問題が解決できるという安心感を求めています。だからこそ、「専門外のため対応が難しい」と言えることが、逆に信頼を深める要因となります。

行政書士のEさんは、開業から1年ほど経過した時、ある大手企業から「自社の新規事業に必要な許可申請を依頼したい」との案件を受けました。しかし、この案件はEさんの得意分野ではなく、専門的な知識が不足していることに気づきます。「この案件を断ったら、もう依頼が来ないかもしれない」と不安になりましたが、思い切って「この業務については他の先生の方が専門知識をお持ちです」と伝えました。

結果的に、Eさんはその企業に信頼され、「では、その先生にお願いし、今後はそちらと協力関係を築いていきたい」と言ってもらえました。その後、その企業からは別の案件が舞い込み、依頼の信頼関係が深まったのです。断る勇気を持つことで、Eさんは信頼できるパートナーとのネットワークを築き、その後の事業拡大に大きく貢献しました。

「断ることが信頼につながる」とは一見矛盾しているように思えますが、実際には、お客様にとって最適な専門家を紹介することが、結果的に自分のブランド価値を高めることになるのです

選んだ業務で深く勝負するには?──専門特化の打ち出し方

業務を選んで集中することが決まったら、次はその業務をどのように打ち出していくかが課題です。単に「得意です」「できます」と言うだけでは、差別化には限界があります。重要なのは、「この分野のスペシャリストとして認識されること」です。そのためには、積極的に専門性をアピールするための戦略が必要です。

例えば、行政書士のFさんは「建設業許可申請」に特化した事務所を運営しており、最初のステップとしてホームページにおいて、建設業に関する豊富な事例やFAQを掲載しました。さらに、建設業界のセミナーに参加し、業界の最新情報を発信することで、業界関係者とのネットワークも構築しました。

結果として、Fさんの事務所は建設業界内で「建設業許可申請の専門家」として認知され、見込み客が自然に集まるようになりました。特に、ホームページに載せた実績やお客様の声が、信頼を生む大きな要素となったのです。また、定期的に業界ニュースを発信することで、クライアントとのつながりを強化し、他の競合との差別化に成功しました。

専門性をアピールするためには、どんな手段を使っても構いません。例えば、ホームページやSNSでの情報発信、業界向けのニュースレターを出すなど、どんな形で専門性を強調するかを考え、実行することが、結果として「この分野で一番頼りになる行政書士」として認知されるための鍵となるでしょう。周囲から認知していただく手段として、ホームページを積極的に活用していきたいものです。

やらないことを決めると、経営はシンプルになる

「やること」が決まると、自然に「やらないこと」が見えてきます。業務を絞り込んでいく過程で、事務所全体がシンプルになり、経営は格段にスムーズになります。無駄なリソースや時間を削減できるだけでなく、意思決定が早くなることで、スタッフにも判断基準が共有され、効率的な運営が可能になります。「やること」が決まるとマニュアル化もしやすくなります。そうなると、スタッフとのコミュニケーションも円滑になり、無駄な打ち合わせや確認作業が減少。その結果、事務所の成長スピードも加速するでしょう。

「やらないこと」を決めることで、視界はクリアになり、「やるべきこと」が鮮明になります。それこそが、事務所の運営をシンプルにし、効率性を飛躍的に高める秘訣なのです。

Genomosへのお問い合わせ
  • Genomosの取り扱うサービスについて、ご質問やご相談などございましたら、メールフォームより随時承っております。
  • 通常、2営業日以内に返信いたしますが、メールアドレスの間違いや迷惑メール対策等によって、返信できない場合がございます。
  • 2営業日を経過しても連絡がない場合は、お手数ですが再度のご連絡をお願いいたします。(その際、本文内に念のため別のメールアドレスも記載いただけると助かります)
メールでのお問い合わせ

    事務所のある都道府県(開業前の方は設置予定の都道府県)必須

    ご用件必須

    Webサイト制作コンサルティングWebサイト診断相談会等への参加その他お問い合わせ

    ご相談場所(コンサルティングをご希望の場合のみ)

    ページトップへ戻る