Q. 行政書士事務所を経営しています。スタッフの採用活動を行っていますが、私やスタッフと相性が悪くて困っています。どうすれば「いい人」を採用して定着してもらうことができますか?
A. 「いい人」を採用するためには、本人の意欲やスキル・経験だけでなく、教育や職場環境の整備に注力することが必要です。こうした要素を考慮することで、相性のよい人材を長期的に確保することができると思います。
行政書士事務所における採用は、業務の効率化と事務所の成長を左右する重要なプロセスです。特に小規模な事務所においては、適切な人材を採用することが業務品質に直結します。しかし、採用にはさまざまな法的・実務的なリスクや注意点が存在します。本記事では、行政書士事務所が採用時に押さえるべきポイントのなかでも重要な内容について解説します。
1.採用ニーズの明確化
まず、採用を行う際には、事務所が抱える具体的なニーズをしっかりと把握することが重要です。採用活動は、漠然と「忙しいから人が必要」という理由で始めるのではなく、事務所の業務内容とスタッフに求めるスキル・能力を明確にした上で行う必要があります。具体的なステップとしては以下のようなことが挙げられます。
業務内容の明確化
行政書士事務所の業務といっても多岐にわたります。許認可申請や契約書作成、外国人のビザ申請、さらには遺言書や相続関連業務まで対応することが一般的です。それぞれの業務には異なる知識やスキルが必要なため、採用時に「どの分野を担当するのか」を明確に定義することが重要です。
採用条件の言語化
次に、求めるスキルや経験をはっきりと定義します。例えば、許認可申請に精通している人材を求めるのか、クライアント対応やコンサルティングスキルが必要なのかなどを明確にし、それを基に採用基準を設けましょう。
2.個人情報保護と守秘義務
行政書士業務では、クライアントの機密情報や個人情報を扱うことが多いため、正社員、契約社員、アルバイトなどの雇用形態に関わらず適切な守秘義務を課す必要があります。新入社員に対しては、個人情報保護に関する教育を徹底し、具体的な事例やリスクについても説明して理解してもらうことが重要です。
守秘義務の徹底
新規採用スタッフに対して、守秘義務に関する契約書を交わすことも一つの方法です。これにより、クライアント情報の漏洩や不正利用を防ぐための法的な基盤を築くことができます。
個人情報保護の体制
クライアントの個人情報を扱う上で、どのようなプロセスで情報を保管・管理するのかを明確にし、スタッフにもその手順を共有します。たとえば、書類の取り扱い方法やデジタルデータの管理方法、アクセス制限などを策定し、徹底することが重要です。業務連絡でスタッフの私用携帯電話やパソコンを使用することは控えた方がよいでしょう。
3.採用時の面接で確認すべきポイント
採用面接では、候補者のスキルや経験だけでなく、事務所の文化やチームとの相性も重要な要素となります。面接で確認すべきポイントとしては以下のものがあります。
経験や知識の確認
行政書士事務所での勤務経験がある候補者は稀です。勤務経験がある候補者の場合は専門知識や実績があるかを確認します。また、前職の行政書士事務所では、どこまで案件に関与していたかの確認も重要です。行政書士事務所での勤務経験がない場合は、職歴より候補者のスキルや経験を確認します。候補者の年齢と比較して職歴が短い場合は、候補者の努力だけでは補えない何かが生じている場合があるので慎重な判断が求められます。
コミュニケーション能力
行政書士業務といっても、黙々と書類作成などの作業を行う業務もあれば、クライアント・行政機関・スタッフとのやり取りが多い業務もあります。やり取りが多い業務の場合は候補者のコミュニケーション能力が重要です。面接時には、質問への応答の仕方や、相手の話をしっかりと聞き取る姿勢を確認することで、その人の対人スキルを評価します。
柔軟性と適応力
法律や規制が頻繁に変更される分野であるため、迅速に新しい情報を学び、適応する能力が求められます。行政書士業務は複数の案件が同時に進行することも多いため、状況にあわせて業務の優先順位が変わっていきます。面接では、過去の職務経験の中でどのように変化に対応してきたか、また学習意欲や成長意識を持っているかを確認しましょう。
健康状態
行政書士の業務は、書類作成やクライアント対応など、長時間のデスクワークが伴うことが多く、精神的・肉体的な負担がかかる場合があります。そのため、候補者の健康状態も確認する必要があります。特に、頻繁な体調不良や過去の健康問題が業務に支障をきたす可能性があるかを考慮することが重要です。ただし、健康状態に関する質問はプライバシーに関わるため、慎重に行い、差別的な扱いを避けるように注意しましょう。可能であれば、一般的な健康診断や病歴申告書の提出を求めることも一つの方法でしょう。
4.研修と教育の充実
採用後には、実務に即した研修や教育を行うことが不可欠です。新人スタッフがスムーズに業務を開始できるように、以下のような研修プログラムを用意しましょう。
法的知識の研修
行政書士業務に必要な基本的な知識の習得をサポートします。特に取扱い業務の業法や審査基準などに関する最新の情報を提供することで、スタッフが実務に対応できるようにします。
実務スキルの教育
書類作成や顧客対応に関する実務的なスキルを磨くための研修を行います。書類作成研修は具体的な事例を基に、どのように書類を作成し、適切に申請するかを学ぶ機会を提供することが効果的です。顧客対応研修は先輩スタッフの打合せに同席させたり、ロールプレイングを通じて教育してくのがよいでしょう。
5.良好な職場環境の構築
採用後のスタッフが長期間にわたって快適に働ける職場環境を作ることも重要です。行政書士事務所では業務量が多岐にわたり、ストレスがかかることもあるため、良好な職場環境を提供することが長期的な成功につながります。行政書士有資格者の場合は、独立リスクの低減にもなります。
チームワークの促進
小規模な事務所では、スタッフ間のコミュニケーションがスムーズであることが求められます。定期的なミーティングや意見交換の場を設け、チームワークを促進しましょう。
働きやすい環境の整備
労働環境の改善や、福利厚生の充実も考慮しましょう。例えば、休憩スペースの整備や柔軟な勤務時間や適切な休暇制度の整備などが挙げられます。これにより、スタッフがプライベートと仕事のバランスを保ちながら働けるようになります。
事務所の立地
職場の立地は、スタッフの通勤時間や利便性に直結する重要な要素です。都市部では事務所が駅から近いことでスタッフの通勤がスムーズになり、日々のストレスを軽減できます。車通勤が一般的な地域では従業員駐車場が整備されていることも大切です。さらに、近隣にカフェやランチスポットが豊富な場所や、仕事後にリフレッシュできる環境が整っているエリアに事務所が位置することも、職場環境の魅力を高める要因です。主婦層を採用した場合は、仕事後に買い物ができるスーパーが近くにあるのも良い立地といえるでしょう。
まとめ
行政書士事務所の採用には、事務所のニーズを把握し、法的な対応を適切に行い、さらにスタッフの教育や職場環境の整備に注力することが必要です。こうした要素を考慮することで、優れた人材を長期的に確保し、事務所の発展を支える基盤を築くことができます。
行政書士事務所は小規模な事務所が多く、採用してはいけない人を採用してしまうと、一般企業よりも大きなダメージを受けます。事務所の雰囲気が最悪になり、スタッフの離職に繋がり、事務所の成長が停滞します。
期待したのにまったく活躍しない、面接時にできるといっていたことが全くできないということがよく起こります。一方で、チャレンジで採用したスタッフが、みるみる成長して大活躍することもあります。
人を見抜くのは難しいです。面接や適性診断だけでは見抜くことができず、一緒に働いてみないとわからないことがありますが、ご紹介した採用時の注意点を参考にしていただければと思います。