行政書士事務所を運営していくときに、自宅兼オフィスにするのか、自宅とは別にオフィスを借りるべきなのかはよく議論されます。
人それぞれの環境と開業資金などによってベストな選択は変わってきますので、一概に「これが正解」というものはありませんが、立地なども含めて考えてみたいと思います。
自宅兼用オフィス
行政書士事務所の開業をするときは、事業立ち上げのために様々な費用がかかってきます。そのため、固定費圧縮を目的として自宅の一部をオフィスにしようと考える方も多いです。
自宅とオフィスを兼用した場合、固定費を低く抑えられるぶんマーケティングなど他の分野に浮いた資金を投入できることや、通勤時間がゼロで、早朝でも深夜でも業務対応ができるということが主なメリットとして挙げられます。
業務面でも、行政書士の業務の大部分を占める書類作成、電話、メールといったことに関しては、パソコンと電話とプリンターがあればできるので、それほど大きな支障はありません。
その一方で、事業をするうえでのデメリットも多くあります。
- 顧客との面談が難しいケースがある
- 顧客との電話中に生活音が入ってしまうことがある
- 住居目的で借りた物件だと事務所として登録できない可能性がある
- 住居部分と事務所部分の分離をしないと行政書士事務所として登録できない可能性がある
- 行政書士会の名簿上から自宅住所が分かってしまう
- 大型の複合機を設置するのが難しいことがある
- 生活スペースと繋がっているため気持ちの切り替えが難しい
- スタッフを雇用しにくい
これらのデメリットも、例えば自宅の敷地内に自宅とは別に事務所の建物が建っていたり、自宅の一部が事務所として使うことを想定された建物を使用するという場合には大部分が解消されます。
以下、もう少し詳しく触れます。
生活音のデメリット
結局はケースバイケースということにはなりますが、たとえば顧客との電話中に洗濯や炊事の音が入ったり、換気のため開け広げている窓から事務所らしからぬ環境音が響き入ってくると、打ち合わせの電話に対する集中力が途切れるデメリットは大きなものとなります。
行政書士として開業する人の向き、不向き、そして家族や周囲の環境を考慮して、自宅兼用オフィスが適しているか、よく考える必要はあるでしょう。
自宅住所がオープンになること
自宅兼用オフィスでは、事務所の場所が自宅の場所でもあるため、営業時間外や休日に電話や来客があった場合、その応対や気持ちの切り替えをどうするかといった問題も生じます。
ウェブサイトを主な営業手段とする場合、そこに電話番号や事務所所在地を記載することになりますから、取扱業務によってはプライバシーとの兼ね合いで両立が難しいケースも考えられます。
通勤時間と気持ちの切り替え
自宅兼用オフィスでは、それこそ布団から10秒で仕事場(PCの前)へ移動できるため、通勤に割く時間と交通費がかからない点が大きなメリットです。空いた時間を営業活動に回すことができれば、そのぶん事務所の運営を早期に軌道に乗せることも可能でしょう。
一方で、布団から仕事場まで10秒の裏返しとして、就業時間と生活時間を自ら律することができないと、いつまでも私的生活モードが続いてしまい、なかなか事務所運営が上手く回らない可能性も出てきます。
専用オフィス
行政書士事務所として専用のオフィスを用意すれば、上記のようなデメリットは解消できますが、その分固定費が必要になることが最大のデメリットです。
複数人で共同でオフィスを借りたり、行政書士の登録要件を満たすようなレンタルオフィスを利用することで、ある程度は負担を抑えることもできます。
しかし、それでも毎月定額で賃料が出ていくのは資金繰りに与える影響が大きいです。
十分な開業資金が用意できているなら別ですが、専用のオフィスを設置・維持できるだけのコストを負担できるか、十分な検討を要します。
本気度を上げる利点
どうしても毎月の固定費が高くなってしまう専用オフィスですが、だからこそ、事務所運営を本気で軌道に乗せやすい利点というのも、人によってはあるはずです。
自宅や実家だと、固定費が不要なのでダラダラと何でも先延ばしにしてしまう性格の人なら、事務所を借りて責任感を強める選択もありかもしれません。
それと同様に、同業者や他士業と同一フロアに同居する共同のオフィスも、固定費を低く抑えつつ切磋琢磨して成長しあえる環境ならよいのですが、同じ境遇の人同士が居心地の良い空間を作り上げてしまい、比較的安価な維持費と相まって事務所の売上がなかなか上がらないといった事態も考えられます。
この辺もまた、行政書士として開業する人の性格によるところも大きいですが、オフィスを借りる利点の一つではあるでしょう。
オフィスの近くにあると便利な施設
行政書士業務を行うにあたって、以下のような施設が近所にあると便利です。
- 郵便局(営業時間の長い大型の郵便局だとより便利)
- 法務局
- 銀行
- コンビニ
- 公証役場
- 市役所、区役所
- 各種行政機関の窓口
何の業務を取り扱うかによって左右されますが、郵便局についてはほとんどの業務で頻繁に利用することになるため、行政書士事務所とは相性が良く、近くにあると非常に便利です。
交通利便性と営業活動
近所の施設とは別に、行政書士事務所を運営していく上で、交通の利便性という点は営業活動に直結しやすいため、事務所選びの際は合わせて考慮しておくほうがよいでしょう。
都市部であれば、公共交通機関の駅近くに事務所があれば顧客が足を運びやすくなりますし、同時に行政書士も役所や顧客の会社等に移動しやすくなります。
地方の車社会であれば、幹線道路からほど近い場所にあるか、駐車場は気軽に利用できるか、などが集客面で大きな違いとなるケースもあります。
東京近郊に限れば、事務所の候補地を検討する際、3つ以上の鉄道路線が使える立地に事務所を構えると、集客面ではかなり有利に働く可能性が高いです。
まとめ
行政書士事務所経営上の固定費のなかでも、オフィス賃料というのは人件費と並んで大きな比重を占めます。そのため、どのようなオフィスにいくらかけるのかというのは、事業計画を考えるうえでも重要な事項になると思います。
また、オフィスを移転すると、行政書士会や金融機関など各所への所在地変更、名刺やホームページの修正など、それなりの手間と費用を要することになります。
できれば短期に何度も移転することは避けたいところですから、事務所の形態や立地は慎重に検討することをオススメします。