「行政書士の需要は、あるのか、ないのか」
資格試験に合格して行政書士事務所をこれから開業しようか検討している方、あるいはまだ試験には合格していないものの、資格を取得して行政書士としてやっていけるか悩まれている方にとっては、非常に気になる話題かもしれません。
というわけで今回は、行政書士の需要について考えてみたいと思います。
行政書士の需要はある
まず最初に結論を申し上げておくと、行政書士の需要はあります。
これは当たり前の話で、一定数の行政書士事務所が存在し続けているということ、比較的規模の大きな行政書士事務所も存在することが、その証明だと言えるでしょう。
もちろん「行政書士 需要」と検索してこのページにたどり着いた人は、そんな話を聞きたいわけではないと思いますので、もう少し具体的なお話をしたいと思います。
行政書士の需要の内訳
現在需要がある、主な行政書士事務所が供給しているサービスを、かなり大雑把に分類して紹介すると以下のようになります。
- 各種許認可関連業務(車関係含む)
- VISA(在留資格)、帰化など外国人関連業務
- 相続、後見、内容証明、契約書などの民事業務
最近ではこれらに加えて、コンサルティング的要素も行政書士の業務として提供するべきなど様々な議論はありますが、基本的には上記で行政書士業務の大部分はカバーできているのではないでしょうか。
行政書士業務の範囲は非常に広い
このように行政書士業務は、国民生活に不可欠な部分を広範囲にわたってカバーしているので、社会からの需要は決して小さくはありません。
ただし、これらの中には、わざわざ行政書士に依頼しなくても自分で出来てしまうことが一定程度含まれているのも事実です。
この辺りが行政書士に「本当に需要があるのか」という疑問を抱かせる一因になっているのかもしれません。
しかし、「自分で出来る」と「自分でやる」の間には意外と距離があります。
たしかに、一昔前と現在を比較すると行政機関はとても親切になりました。
ホームページから申請書の様式がダウンロードできたり、行政機関の窓口に足を運ぶと書類の書き方を教えてくれるようになりました。
しかし、行政機関の窓口は書類の書き方は教えてくれても、各種許認可の取得方法や他の許認可の要否までは手取り足取り教えてくれません。
「やろうと思えば自分で出来るけど、誰かにやって欲しい」「手続きを自分で進める時間が惜しい」という需要が現実には存在しているというのは、行政書士事務所を一定期間経営した人なら感じていることではないでしょうか。
極端な例ではありますが、世の中には多大な労力をかけて本人訴訟をして勝訴判決を勝ち取る人もいますが、だからといって弁護士に需要が無いという結論にはなりません。
「自分でもできる」を基準にしてしまうと、行政書士業務の多くを「需要のないもの」と判断してしまいがちですので、この点には注意しておくほうがよいでしょう。
行政書士の需要を「あなたの仕事」にするのは簡単ではない
ここまで述べてきたように、行政書士の需要は確実に存在しています。行政書士が受任に結びつけられていない潜在需要という意味では、かなり大きな規模になるでしょう。
しかし、あなたが行政書士事務所を開業したときに、この需要をあなた自身の仕事にすることは決して簡単ではありません。
地球上に生きている誰もが食事をするからと言って、あなたが開いたレストランが繁盛するとは限らないのと同じ理由です。
そこにはマーケティングと営業など「集客」の要素、そして相談に踏み出してくれた人に対する「接客」の要素、クライアントワークならではの様々なスキルが必要になってきます。
「法律の知識がある、実務をするだけの知見を持っている」から、あなたの事務所に仕事が舞い込むのではありません。
行政書士事務所の経営は、実務力と集客力の両輪が揃ってはじめて成り立ちます。
「何を当たり前のことを」と思われるかもしれませんが、特に開業初期の事務所経営で苦労する人は、この両輪のバランスが悪いように見えます。
集客が苦手で実務の習得に偏ってしまい売上が立てられなかったり、逆に営業畑出身の方で、集客力はあるのに実務力が不足していて、業務品質が低い結果としてお客様とトラブルになってしまったりといったケースです。
「あなたの仕事」にするには一定の時間がかかる
需要と供給の結びつけについて、もう一点触れるとすれば、行政書士試験を合格して開業する人の中には、「開業さえすれば自分の存在に気づいてくれる」という根拠のない自信の強い人がかなり多く存在する印象を受けます。
「開業した、でも依頼がなかった、この地域には行政書士の需要がない」
この結論に1ヶ月や2ヶ月で達してしまう人もよく目に(耳に)しますが、そもそも、行政書士事務所が存在していることを認識してもらうためには、それなりの日数を要します。これは行政書士に限った話ではなく、もっと大きな括りでいえば「何かをしていることを、他人が認識するには相当の時間がかかる」ということです。
本人にとって、1ヶ月、2ヶ月という期間は毎日の積み重ねであるためかなり長い期間に感じますが、他人にとっては「あっという間」「つかの間」です。
需要を自らの業務に接続するための期間については、十分考慮して開業資金の額を検討しておくほうがよいでしょう。
地方での行政書士の需要はどうか
また、大都市圏以外の地域での開業を検討している方は、地方にも行政書士の需要があるのかどうかを心配している方も多いです。
「地方」と大きく括ってしまうにはあまりにも地域によって事情が違うため、一般化して語るのは難しいですが、一定の人口があればその人口に応じた需要は存在しているはずです。
ただし、都市部から離れるほど「行政書士の需要はない」という結論が根拠もなく強まる傾向があるため、鵜呑みにせず自分で人口や産業比率の資料を収集して潜在需要を判断する、現状をしっかりと分析した上で適切な業務と対象地域を設定する姿勢は、より一層問われることになります。
なお、地方でのウェブ集客については「行政書士がホームページで集客できるのは大都市圏だけ?」でも紹介していますので、興味のある方はこちらも読んでみてください。
まとめ
ここまで紹介してきたように、行政書士の需要は確実に存在していますし、世間には「行政書士」が何をしているのか認識していない人が大半であることを考えても、まだまだ掘り起こされていない潜在需要は大きなものでしょう。
しっかりと集客と実務の両輪を回すことができれば、その需要をキャッチすることは十分可能です。
もしあなたが行政書士事務所を開業しようか本気で悩んでいるなら、開業しようと考えているエリアの行政書士事務所がどんな業務を取り扱っているのか、実際に話を聞いてみるのもよいでしょう(もちろん、相手に快諾してもらえればの話ですが)。
その地域の行政書士が公開するウェブサイトを見ただけでは分からない、現場ならではの動きと、それを引き起こす地域の需要というものを、そこで体感できるのではないでしょうか。