行政書士の仕事、特に許認可業務は、基本的に依頼者と行政機関の間に入る形になります。
「役所に言われたことをそのまま依頼者に伝えるだけでは、行政書士が間に入る意味はない」
こう言われることも多く、行政書士という仕事の存在意義にも関わる問題ですが、今回は役所とのやり取りと依頼者の利益について考えてみようと思います。
行政書士の存在意義
許認可申請における行政書士の役割というのは、行政機関と依頼者との調整役です。
行政書士法の第1条にもこう書いてあります。
第一条 この法律は、行政書士の制度を定め、その業務の適正を図ることにより、行政に関する手続の円滑な実施に寄与し、あわせて、国民の利便に資することを目的とする。
行政書士法 第一条
手続きを円滑にするだけではなく、依頼者の利便にも資することも、どちらも目的とされています。
さて、抽象的な話はこのくらいにして、実際に行政書士として仕事をしていく上で、行政機関との調整役として、どう立ち振る舞うべきなのでしょうか。
その対応で得をするのは誰なのかを考える
それなりに経験を重ねた行政書士だと、役所の窓口で別の行政書士が派手に喧嘩したおかげで、担当者の機嫌が悪くて(行政書士へのイメージも良くないものとなり)難儀したという経験がある人も多いのではないでしょうか。
ここで考えたいのは、役所の窓口で、担当者に対して必要以上に高圧的な態度で対応したり、自分の主張を無理にゴリ押ししてゴネたりといった態度を取って窓口で担当者と喧嘩をすることは、誰の得になるのかという点です。
本来、怒鳴ったり脅したりしたところで役所の態度は変わりません。
結果として担当者の心象は悪くなり、行政書士のイメージも悪くなり、それによって手続きに遅れが出たりすれば、怒鳴ったことで行政書士のストレスは一時的に軽減されるのかもしれませんが(そんなストレス発散方法はそもそも間違っているとは思いますが)、依頼者にとって不利益が生じます。
そうは言っても役所の担当者から理不尽な要求や対応をされた経験は、許認可を扱う行政書士なら誰しも経験していることでしょう。
そんなときはどう対応するべきなのでしょうか。
唯一の正解がある問題ではありませんが、一般論として、もう少し考えてみましょう。
役所との調整術
行政書士が納得できないような役所からの要求の一例としては、
- 法令上求められていない書類の提出を求められる
- 法令を杓子定規に解釈し過ぎて、実質的に無意味な書類の提出を求められる
- 事前に協議していた内容をひっくり返される
- 法律上認められているはずの代理人としての修正などが認められない
といったものが挙げられます。
これに対しては、様々な対応法が考えられますが、理論武装をした上でしっかりと議論をして落とし所を探るという方法をとっている行政書士が多いように見えます。
法令や前例、場合によっては情報公開請求なども駆使しながら、理論で役所と協議し、説得していくことで、それがまた新たな前例となり、あとに続く行政書士、そして依頼者にとっての利益にも繋がっていきます。
行政書士も士業として、感情的になって喧嘩するのではなく、しっかりと理論で戦うことが大切なのではないでしょうか。
依頼者の利益を忘れない
唯々諾々と担当者の指示に黙って従うだけでは依頼者の利益にもならず、申請手続きにおいて本来不要な手順が慣習化してしまう危険もあります。
ただ忘れてはいけないことは、何が依頼者の利益になるかという点です。
本来、法令上は要求されていないものを追加で要求されることは、依頼者にとっては余計な負荷がかかることになります。
業務の円滑な遂行を期待して依頼を受けた行政書士としては、本来不要と思われる手間は極力省くことが求められるところではありますが……当該案件の依頼者からすれば法令上不要な書類もさっさと言われるままに提出して、早く許可を取れたほうが利益が大きいというケースもあるでしょう。必ずしも役所と戦って、法令に適した言い分をとおすことが依頼者の利益になるとは限りません。
窓口で喧嘩するのも、担当者の要求を突っぱねるのも、結果としてそれが顧客の不利益につながってしまうようでは本末転倒です。
許認可業務を取り扱う行政書士にとって、行政機関と事業者の間でどのような立ち位置をとるかというのは、永遠の課題かもしれません。しかし、どんな対応をとるにしても、本来の目的が何であるかは常に頭の片隅に置いておく必要があるでしょう。