Q行政書士開業予定です。行政書士の方の情報発信を見ていると「業務を絞って専門特化した方がいい」という人と「(特に大都市圏以外では)業務特化せずに幅広い業務を取り扱った方がいい」という人の両方がいます。これはどう考えたらいいのでしょうか?
A多くの人は専門特化した方が、様々な面で有利になることが多いと考えます。
専門特化が行政書士にもたらすメリット
そもそも世間は、意外と行政書士が何者か、何ができるのかを知りません。
「行政書士の〇〇」では、お客様は自身が抱えている悩みや不安について、あなたが相談相手として最適かどうかわかりません。
一方で、「建設業許可に詳しい〇〇」「障がい福祉サービスに詳しい〇〇」「創業融資に詳しい〇〇」などのように特定の業務に特化することで、あなたがどの分野の悩みや不安や悩みを解決できる人かを明らかにすることが可能になります。
これは集客を、紹介中心のアナログ営業で行うのか、ホームページ中心で行うデジタル営業で行うのかを問いません。あなたがどのような悩みや不安を解決できるかを明確にしないと、お客様からの問い合せが発生することすら難しいです。
専門特化のレベルは行政書士事務所によって様々
ただし、専門特化と一口に言っても、「ひとつの業務しかやりません」というものから「〇〇と△△が得意ですが、他の業務もある程度は対応できます」といったように具体的な特化の仕方は様々で、行政書士自身の性格やスキル、地域の特性といった多くの要素を考慮する必要があるでしょう。
繰り返しになりますが、世間は、行政書士に何ができるのか、どのような不安や悩みを解決できる専門家なのかを知りません。専門特化することで、あなたが何者かを明らかにすることができるのです。
そうは言っても営業力がある人は、特に専門特化せずとも仕事を得られるというのも事実なので、あなた自身の営業力とも相談して決める必要もあるでしょう。
「サービス」よりも「人」で仕事の相談が舞い込むような人であれば、無理に専門を絞らない方が上手くいきやすいかもしれません。
行政書士が専門特化しない場合のデメリット
逆に専門特化をせず、「相談があれば法律的に行政書士が対応できる業務はすべてご相談ください」というスタンスを取った場合のことも少し考えてみましょう。
もちろん法律的に行政書士が対応可能な業務すべてに対応できる行政書士事務所があるのであれば、その能力は素晴らしいと思いますし、そのような行政書士がいるとすれば、間違いなく尊敬に値します。
現実的に少人数で全業務を完璧にこなすのは難しい
ただ、前述のとおり「何でもご相談ください」というやり方だと営業面の難易度は上がりますし、現実的には、行政書士の業務は非常に多岐にわたることから、受任したすべての行政書士業務において自事務所だけでお客様が満足する品質を担保しながら、事務所経営を行うことは難しいです。
現実的には、特に専門を絞っていない行政書士事務所であっても、「行政書士の主要な業務の中で、難易度の低いものであれば一通りやれます」という事務所が多いのではないでしょうか。
「すべての行政書士業務について、どのような難易度の案件でも依頼があったら対応する」という場合、未知の分野の高難易度案件の相談が入るごとに、その業務についてかなりの調査が必要になり、事業として成り立たせるのが難しくなります。
相談が入るたびに調査していては、時間的なロスも生じてしまい、具体的な手続きに着手するのも遅くなり、お客様の満足度は下がるでしょう。最悪の場合、調査に時間をかけている間に、お客様はしびれを切らして他の行政書士に依頼してしまった、ということも起こり得ます。
行政書士の仕事は労働集約型であるため、一つの案件にかける時間が短いほど事務所経営は安定します。
開業したてで業務も少なく時間がたっぷりある時期であればともかく、ある程度業務を抱えた状態で相談のたびに調査をしていたのでは、労働集約型である行政書士事務所では、調査費を毎回お客様に負担していただけない限り、どんどん経営が厳しくなってしまいます。
ちなみに、難易度の判別というのも、それなりに専門的な知見が必要なことです。
難易度の判断を誤って手に負えない高難易度案件を安い報酬で受任してしまった結果、トラブルに発展しまうというケースもありますので、詳しくない業務の相談を受けたときには注意が必要です。
専門分野選びのヒント
少し話はそれますが、専門特化をするとして、専門分野をどう決めたらいいのかわからない、という悩みを聞くことも多いです。
唯一の正解があるような話ではないので難しいところもあるのですが、これまで見てきた中ですと、
- 自身の経歴から決めた
- 行政書士として活動していく中で依頼の多かったものが自然と専門分野になった
- 将来性のありそうな業務を選んだ
- 現在需要の大きそうな業務を選んだ
- なんとなく興味があったものを専門分野にした
という人が多いようです。
専門特化の先には
結論として、この記事でお話したとおり、行政書士は専門特化するべきだと考えますが、最終的には「業務特化」から「業界特化」を目指すというのも、専門特化の先にあるひとつの道として意識しておくとよいのではないでしょうか。
「専門としている業界のお悩みごとなら私に相談していただければ解決できます」というレベルの専門家、言い換えれば「行政書士という資格が無くなったとしても、業界の人から専門家として認められるだけの実力をつける」ことができれば、行政書士として生き残ることができるのかもしれません。