行政書士として独立開業する際、多くの人が直面するのが「ウェブサイトをどう作るか」という課題です。事務所の顔となる総合的なサイトを作るべきか、特定の業務に特化した集客用のサイトを優先すべきか。この最初の選択が、後の集客効果を大きく左右します。今回は、ウェブマーケティングに精通するジェノモス代表の岩本さんをお招きし、成果を出すためのウェブサイト制作戦略について、詳しくお話を伺いました。
成果が出るまで時間がかかるサイトから着手すべき理由
──本日はお忙しい中ありがとうございます。早速ですが、多くの新人行政書士が悩むのが、ウェブサイト制作の優先順位です。「事務所の概要を伝えるコーポレートサイト」と「特定の業務で集客を目指す特化サイト」、ずばりどちらから手をつけるべきなのでしょうか?
岩本:はい、これは非常に重要な問いですね。結論から申し上げますと、もしウェブからの集客を本気で目指すのであれば、「検索エンジンからの流入を狙うサイト」、つまり業務特化サイトを最優先で構築すべきです。
──いきなり結論ですね!なぜ、そちらを優先すべきなのでしょうか?事務所の顔となるサイトがあった方が、安心感があるように思えますが。
岩本:おっしゃる通り、安心感はあります。しかし、集客という観点では話が別です。なぜなら、Googleなどの検索エンジンで評価され、安定的にアクセスが集まるようになるまでには、私たちが「助走期間」と呼んでいる、かなりの時間が必要になるからです。サイトを公開してから、検索結果の上位に表示されるようになるまでには、想像以上に長い準備運動が必要なのです。
──助走期間、ですか。具体的には、どれくらいの期間を見ておけば良いのでしょうか?
岩本:扱う業務分野や競合の強さにもよりますが、最近の傾向では、安定的な集客につながるまでには短くても半年、一般的には1年以上かかると想定しておくべきでしょう。
例えば、私が支援したある行政書士は「建設業許可」の専門サイトを立ち上げましたが、最初の問い合わせが来たのはサイト公開から8ヶ月後のことでした。逆に、ニッチな分野で質の高い記事をコツコツと書き続けた方は、半年ほどでアクセスが伸び始めたというケースもあります。
ウェブサイトは「公開してからが本当のスタート」
──半年から1年…思った以上に長いですね。では、サイトを公開した後は、ただ待っていれば良いというわけではないのですね?
岩本:その通りです。ここで多くの方が誤解されるのですが、「とりあえずサイトを作っておけば、1年後には自然と問い合わせが来る」という魔法のようなことは起こりません。公開後の半年から1年という期間は、ウェブサイトをじっくりと「育てる期間」だと考える必要があります。
──サイトを「育てる」とは、具体的にどのようなことをするのでしょうか?
岩本:はい。例えば、お客様になりうる方々がどのような情報に困っているかを調査し、その悩みに応える新しい記事を定期的に追加していくこと。法改正などがあれば、古い情報をすぐに最新化すること。そして、サイトを訪れた人が迷わないように、問い合わせまでの導線を見直すことなど、地道な作業の繰り返しです。
こうした取り組みを通じて、サイトの専門性や信頼性が高まり、検索エンジンからも「このサイトはユーザーの役に立つ有益なサイトだ」と評価され、徐々に見つけてもらえるようになるのです。
──実務の中で、サイトを育てていく上での注意点や、よくある落とし穴などはありますか?
岩本:ええ、よくある失敗例は、ご自身の「書きたいこと」ばかりを書いてしまい、検索しているユーザーが「知りたいこと」に応えられていないケースです。
例えば、許認可の条文をただ解説するのではなく、「個人事業主の飲食店が、深夜営業の許可を取るための3つの注意点」のように、具体的なターゲットの悩みに寄り添ったコンテンツを作成することが極めて重要になります。
最近のGoogleは「E-E-A-T(経験・専門性・権威性・信頼性)」という指標を重視していますから、ご自身の経験に基づいた具体的な事例を盛り込むと、サイトの評価は格段に高まります。
開業後のスムーズなスタートダッシュを切るためのウェブ戦略
──なるほど。お話を聞いていると、サイト制作から集客までは、かなりの時間がかかる一大プロジェクトですね。準備はいつ頃から始めるのが理想なのでしょうか?
岩本:おっしゃる通りです。だからこそ、事業計画がある程度固まった、開業前の段階からウェブサイトの準備を始めることを強くお勧めします。
多くの方が開業してからサイト制作に着手されますが、それでは集客エンジンが温まる前に、運転資金が尽きてしまうという事態に陥りかねません。実際に、開業後半年間ウェブからの集客がゼロで、資金繰りに苦労したという話は珍しくありません。
──それは避けたいですね…。あらかじめ準備しておくことで、開業後の空白期間をなくすことができるわけですね。
岩本:はい。理想は、行政書士登録が完了し、業務を開始するタイミングで、すでにウェブサイトがある程度育ち始めている状態です。特に、先ほど例に出た「建設業許可」や、国際業務の「在留資格申請」のように、多くの行政書士が参入している競争の激しい分野を扱う場合は、一日でも早くサイトを公開し、コンテンツの蓄積を始めることが成功の鍵を握ります。
目的別に見るサイト制作の最適な順番とは
──では、話を最初に戻しますが、具体的なサイト制作の順番について、改めて整理していただけますか?
岩本:もちろんです。まず、最も優先すべきは、先ほどからお話ししている「競合が多い業務に特化したサイト」です。これが将来の収益の柱となる集客エンジンになります。
一方で、事務所の理念やプロフィール、アクセスなどを掲載する、いわゆる「コーポレートサイト」は、言ってみればオンライン上のパンフレットのようなものです。信頼性の担保にはなりますが、それ自体が直接集客を生むことは稀なので、優先順位は後でも問題ありません。
──なるほど。まず稼ぐためのエンジンを作り、事務所の「顔」は後から整えても良い、ということですね。ちなみに、検索からの集客をあまり意識しないサイト、という考え方もあるのでしょうか?
岩本:はい、あります。例えば、1ページでサービスを解説して問い合わせに繋げるLP(ランディングページ)のようなサイトですね。こうしたサイトは、検索で上位表示を狙うのではなく、リスティング広告(PPC広告)を出稿したり、交流会などで名刺交換した相手に直接URLを案内したり、といった使い方に向いています。
公開後すぐに機能させることが可能ですが、広告費がかかり続けるという側面もあります。開業直後は資金も限られますから、長期的に事務所の資産となるコンテンツサイトを先に育てるのが、堅実な戦略と言えるでしょう。
「見栄えの良いサイト」が「集客できるサイト」とは限らない
──少し視点を変えたいのですが、「独立開業するなら、立派な事務所サイトが欲しい」と考える方も多いと思います。この点についてはどうお考えですか?
岩本:ええ、そのお気持ちは痛いほど分かります。きちんと整ったウェブサイトを持つことで、開業した実感が湧き、事業へのモチベーションも高まりますからね。しかし、忘れてはならないのが、「見栄えの良いホームページが、集客できるホームページとは限らない」という厳然たる事実です。
特に、外部の制作業者に依頼して高額な費用をかける場合は、本当にその投資が必要なのか、一度立ち止まって考えるべきです。
──コストをかけるなら、もっと別の使い方があるかもしれない、と。
岩本:その通りです。例えば、見栄えの良いコーポレートサイトに50万円をかけるのであれば、その予算で集客用の特化サイトを立ち上げ、専門家に依頼して質の高い記事を10本、20本と作成してもらう方が、将来的にはるかに大きなリターンを生む可能性が高い。
開業直後にありがちな「なんとなく綺麗なサイトを作って満足してしまう」という落とし穴だけは、ぜひ避けていただきたいですね。
専門家からの最終アドバイス:ウェブサイトは「経営戦略」の一部と捉える
──非常によく分かりました。最後に、これからウェブサイトで集客を目指す行政書士の方々へ、メッセージをお願いします。
岩本:はい。私が最もお伝えしたいのは、ウェブサイト制作を単なる「デザイン作業」や「IT作業」と捉えるのではなく、「経営戦略そのもの」と位置づけてほしい、ということです。どの業務分野で、どのようなお客様をターゲットにし、ご自身のどんな強みを伝えていくのか。ウェブサイトは、その戦略を映し出す鏡のような存在です。
──なるほど。まず戦略ありき、ということですね。
岩本:ええ。ですから、いきなり制作会社に丸投げするのではなく、まずはご自身で「誰に、何を、どのように伝えたいのか」を徹底的に考える時間を設けてください。
その事業の核となる軸がしっかりしていれば、たとえ手作りの簡素なサイトであっても、お客様の心に響く、力強い集客ツールへと育っていきます。焦らず、長期的な視点で、ご自身の事務所の成長と共にウェブサイトも育てていく。この感覚を持つことが、ウェブ集客成功への一番の近道だと、私は確信しています。
──本日は、具体的かつ実践的なお話をありがとうございました。



