行政書士業界において、ホームページは長らく営業の主軸であり、重要な「受注の仕組み」として機能してきました。
しかし今、その前提が根本から崩れようとしています。これまで多くの事務所が実践してきた「許可要件や必要書類を丁寧に解説し、検索流入を狙う」という手法は、もはや通用しなくなりつつあります。
1. 表面化し始めた「表示回数・クリック数」の減少
現在、多くの行政書士事務所のWebサイトで、ある「変化」が起き始めています。
それは、検索結果における表示回数（インプレッション）やクリック数の減少です。
具体的には、これまで安定して集客できていたサイトであっても、表示回数やクリック数が前年比で20%〜30%程度、中には半分近くまで落ち込んでいるケースも珍しくありません。
その最大の要因は、生成AIの普及です。Googleの「AIによる検索体験（SGE/Overviews）」の導入により、ユーザーは検索結果のリンクをクリックしなくても、知りたい情報の「答え」をその場で得られるようになりました。
「○○許可の要件」「必要書類の一覧」といった、事実を整理して伝えるだけのコンテンツは、今やAIが最も得意とする領域です。AIが検索画面上で回答を完結させてしまう「ゼロクリック検索」が増加した結果、これまでの「情報の網羅性」を武器にしたWebマーケティングは、その土台から揺らいでいるのです。
2. 「情報の整理」から「戦略の提示」へ
AIは「平均的な正解」を出すことは得意ですが、現場の「泥臭い調整」や「行政担当者との絶妙な駆け引き」を語ることはできません。
たとえば運送業界であれば、2025年4月より段階的に施行されている物流二法改正や、2026年1月に施行される「取適法（特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律）」への対応など、大きな法改正を目前に控えた経営者がWebで探しているものは、単なる条文の解説ではありません。
経営者が真に求めているのは、「この激変期において、自社の事業と利益をどう守り抜くか」という、実務に基づいた生存戦略です。
AIがどれほど普及しても、ユーザーは「自分の人生や会社に関わる重大な決断」を、AIの回答だけで完結させることはできません。「手続きの解説」を載せているだけのサイトは、AIに取って代わられますが、その先にある「プロとしての見解」を提示できるサイトは、これまで以上に強い引きを放つようになります。
3. AI時代に「選ばれる行政書士サイト」への転換
これからのWeb集客を成功させるには、以下の3点へのシフトが不可欠です。
「情報の解説」から「意思の表明」へ
「要件の解説」は最小限に留め、「この法改正を踏まえ、今、経営者が何をすべきか」「巡回指導や監査で致命傷を負わないために、現場で何を仕込むべきか」という、実務の修羅場を知る者にしか書けない「一歩踏み込んだ見解」を提示してください。
「実績の誇示」から「解決プロセスの開示」へ
単なる「取得実績数」を並べるのではなく、「一筋縄ではいかない案件を、いかにして解決に導いたか」という具体的なプロセスを綴ってください。その葛藤と解決のプロセスこそが、AIには書けない、あなただけの「信頼の源泉」となります。
ターゲットの極限までの絞り込み
「何でも対応」という姿勢は、専門特化されたAIの前では没個性に映ります。入り口を極限まで狭め、特定の業界の悩みに深く突き刺さるコンテンツを用意することで、初めて「AIの回答だけでは不安だ。このプロに託したい」と願う、質の高いクライアントとの接点が生まれます。
Webサイトは「看板」から「思考の証明」へ
かつてホームページは、単なる「便利な集客ツール」であり「24時間稼働する営業担当部門」でした。
しかしこれからは、専門家としての思考、実務経験、そして「激変する時代をどう導くか」という哲学を投影した、「思考の証明書」でなければなりません。
「手続きを確認したいだけ」の層はAIに委ねればよいのです。
これからのWebマーケティングで出会うべきは、「AIの回答だけでは不安だ。この難局を乗り越えるために、伴走してくれるパートナーを」と切実に探している経営者です。
生成AIの普及による検索環境の変化は、行政書士が単なる「代筆屋」の集客を脱し、真の経営パートナーとしてのWeb集客を確立するための、避けては通れない転換点といえます。
