Q. 最近、『前の行政書士が最悪で…』と、同業者への不満を語られるお客様が増えていて、対応に悩んでいます。どうすればいいでしょうか?
A. その戸惑いは、あなたの誠実さの表れですね。しかし、そこには『良い聞き役』で終わらないためのプロの視点が必要だと思います。
「前の行政書士が最悪で…」同業者の不満を語る依頼者への対応術
「前の行政書士は、全然動いてくれなくて…」
「料金ばかり高くて、説明も不十分だったんです」
行政書士として仕事をしていると、こうした言葉とともに相談に来る依頼者に遭遇することは少なくありません。
この瞬間は、あなたの真価が問われる重要な局面です。なぜなら、この状況には「真の信頼を勝ち取るチャンス」と「事務所を危機に陥れる深刻なリスク」という、正反対の側面が潜んでいるからです。
この記事では、この複雑な状況に対応するため、「信頼獲得(攻め)」と「リスク管理(守り)」の両面から、すぐに使える具体的な対応術を解説します。
信頼獲得の原則 〜品格ある対応でチャンスに変える〜
まず大前提として、依頼者は過去の経験から不安や不満を抱え、あなたの事務所に問い合わせをしています。
その気持ちに寄り添うことが、プロフェッショナルとしての第一歩です。
依頼者が同業者の不満を口にする心理
依頼者の言葉の裏には、様々な感情が渦巻いています。
- 不安の裏返し: 「今度の行政書士は本当に信頼できるだろうか?」という強い不安感。
- 共感への渇望: 「自分の辛かった気持ちを分かってほしい」という切実な願い。
- 自己の正当化: 「自分に非はなかった」と認めてもらうことで、気持ちを整理したい。
これらの心理を理解せずして、信頼関係を築くことはできません。
絶対にやってはいけないNG対応
良かれと思った行動が、逆効果になることがあります。
NG1: 同調して一緒に批判する
「それはひどい行政書士でしたね!」と安易に同調すれば、その場は共感を得られたように感じても、「この行政書士も裏では人の悪口を言う」という不信感につながります。何より同業の品位を貶める行為です。
NG2: 話を遮り、前の行政書士を擁護する
「何か誤解があるのでは?」と依頼者の話を否定すれば、「話を聞いてくれない」と心を閉ざされてしまいます。
NG3: 安易な値引きに応じる
「料金が高かった」という話にすぐ値引きで応じると、自らの専門性の価値を下げてしまいます。
信頼を勝ち取る「品格ある」対応の3ステップ
では、どうすれば良いのか。重要なのは、「感情」と「事実」を切り分け、未来志向の対話へ転換させることです。
ステップ1: 徹底的に「傾聴」し、感情に寄り添う
まず、依頼者の話を遮らずに最後までじっくり聞きましょう。ここで重要なのは、前の行政書士の行為の「是非」を判断するのではなく、依頼者が「そう感じた気持ち」に寄り添うことです。
【セリフ例】
「そうでしたか。それは大変ご不安な思いをされましたね。」
「手続きが思うように進まず、ご心配だったこととお察しいたします。」
ステップ2: 「事実」を整理し、課題を明確化する
依頼者の感情を十分に受け止めたら、次はプロとして冷静に「事実」と「課題」を整理します。
【セリフ例】
「お話を伺い、状況は理解いたしました。つまり、〇〇という手続きの△△という点で滞ってしまい、その後の見通しが立たないことが一番のご懸念点、という認識でよろしいでしょうか?」
ステップ3: 未来志向のスタンスを明確に伝える
最後に、過去の評価ではなく、これからの解決策に焦点を当てることを伝えます。
【セリフ例】
「お辛い経験をされたのですね。お気持ちはお察しいたします。私としては、過去のことについて評価する立場にはございませんが、あなたがこれからどうされたいのか、その目標を達成するために私がどのようにサポートできるかという視点で、ご提案をさせていただきたいと考えております。」
この基本姿勢を貫くことで、ほとんどの誠実な依頼者との間には、強固な信頼関係が生まれるはずです。
リスク管理の実践 〜受任すべきでない依頼者の見極め方〜
しかし、注意しなければならないのは、依頼者が語る「事実」が、必ずしも客観的な真実とは限らないケースです。
中には、不満の原因が依頼者自身にある場合も少なくありません。
プロとして、そして経営者として、自らの事務所を守るための「リスク管理」もまた不可欠です。
「依頼者は常に正しい」とは限らない
安易な受任は、報酬の未払いや不当なクレーム、最悪の場合は懲戒請求などのトラブルに発展しかねません。
特に、責任転嫁型、過剰要求型、コンプライアンス軽視型の依頼者には細心の注意が必要です。
要注意!見極めるべき“危険なサイン”5選
初回の相談時、依頼者の言葉に以下のサインが見られたら、より慎重な判断が求められます。
「全く動かなかった」に具体性がない
事実関係の質問に対し、感情的な言葉に終始し、時系列が曖昧。
複数の事務所を転々とたらい回しにされている
「あなたで3人目なんです」という言葉は、行く先々でトラブルを起こしている可能性を示唆します。
専門家への過度な依存と責任転嫁
「プロなんだから100%成功させてください」など、不許可リスクを理解せず、すべての結果責任を押し付けようとする。
料金への異常な執着
不満の根源が「料金」にしかなく、業務の価値を正当に評価しようとしない。
コンプライアンス上の疑念
「なんとかうまくやってくれると…」といった言葉の端々に、違法・不当な行為を求めていた過去が垣間見える。
「断る勇気」も専門家の重要なスキル
これらの危険なサインを感じ取った場合、感情的な話に流されず、客観的な事実を深掘りして確認することが重要です。
その上でリスクが高いと判断した場合は、毅然として「受任を断る」勇気を持つべきです。
【お断りする際のセリフ例】
「大変申し訳ございませんが、ご希望の業務内容と当事務所の方針とが合致しないようですので、今回はご依頼をお受けすることができかねます。」
目先の売上のために危険な案件に手を出すことは、結果的に何倍ものコストを支払うことにつながります。
『共感力』と『分析力』の両輪で、事務所を成長させる
同業者の不満を語る依頼者への対応は、まず「品格ある傾聴」から始めることが大前提です。
その誠実な姿勢が、行政書士としての信頼の礎となります。
しかし同時に、プロの経営者として、その言葉の裏に潜むリスクを冷静に分析する「もう一つの目」を持つことが不可欠です。
この『共感力』と『分析力』の両輪を巧みに使いこなすこと。
それこそが、事務所を健全に成長させ、真に価値ある専門家サービスを提供し続けるための鍵となります。
時には「断る」という厳しい判断も、自らの事務所と、すでにご依頼いただいている他の優良な依頼者を守るための誠実な選択なのです。